2026年度の最低賃金引き上げの目安は、7月23日の4回目の会合でも決まりませんでした。労働側は75円の引き上げを要求し、経営側との隔たりが埋まらないまま、決着は7月末ぎりぎりまでもつれています(時事通信・2026年7月23日配信)。ニュースは「全国平均でいくら上がるか」を追いかけていますが、先に結論を書きます。Uber Eatsや出前館の業務委託で配達している私たちの単価は、この改定で1円も上がりません。最低賃金は雇われて働く人の制度で、業務委託は対象外だからです。
それでも私は、毎年この審議を追いかけています。最低賃金は私たちの時給ではないけれど、「いつでも戻れる時給仕事の下限」ではあるからです。つまり、自分の配達の稼ぎを採点するための基準線になります。この記事では、審議の現在地を数字で押さえたうえで、最低賃金を基準線として使う手順と、基準線を下回ったときの動き方を書きます。私の直近1週間の実測も、判定例として載せています。
もつれる2026年度の目安、数字の現在地
まず事実だけ並べます。
- 目安を議論する中央最低賃金審議会の小委員会は、6月26日に今年度の審議を始めました(厚生労働省・審議会ページ)。
- 7月17日の3回目の会合では目安額の議論に入れず(時事通信・2026年7月17日配信)、7月23日の4回目の会合で労働側が75円の引き上げを要求しました。それでも経営側との隔たりは埋まらず、結論は持ち越しです(時事通信・2026年7月23日配信)。
- 次回の会合は7月27日の予定で、審議会は7月末までの決着をめざしています(労務情報サイトtaxlabor・7月24日更新)。昨年度は目安の答申が8月4日までずれ込んでおり、今年も似た展開になりつつあります。
- 現在の最低賃金は全国加重平均1,121円。2025年度の改定で前年から66円(6.3%)上がりました。東京は1,226円、大阪1,177円、愛知1,140円、北海道1,075円、福岡1,057円。最も低い宮崎・沖縄・高知でも1,023円で、全都道府県が1,000円を超えています(社会保険研究所まとめ・東京労働局発表)。
- 国の目安(63〜64円)に対して、答申で目安を上回ったのは39道府県でした(実務能力開発支援協会・法改正情報)。地方ほど上乗せする流れが続いています。
- 政府は6月、全国平均1,500円という目標の達成時期を、従来の「2020年代」から「2030年代前半までに」へ後ろ倒しする方針を打ち出しました(時事通信・2026年6月26日報道、大和総研・2026年7月9日レポート)。
- 発効は例年10月ごろからです。昨年度は東京が10月3日、福岡が11月16日、最も遅い秋田は今年の3月31日と、県によって半年近い差がつきました。
労働側の要求どおりなら、全国平均は1,196円です。ただ、要求満額で決まった年はまずないので、私は昨年の上げ幅66円と今年の要求75円のあいだ、平均1,180円台後半での決着を仮置きにしています。その場合の東京は1,290円前後で、1,300円が視界に入ります。あくまで私の仮置きで、目安が出たらこの段落ごと実額に差し替えます。
業務委託に最低賃金がない話は30秒で終わります
最低賃金法が守るのは、雇われて働く「労働者」です。厚生労働省のFAQにも、常時・臨時・パート・アルバイトといった雇用形態に関係なく「事業場で働くすべての労働者」に適用されると説明されています(厚生労働省・最低賃金制度FAQ)。
だから同じ配達でも、マクドナルドのデリバリークルーのような直雇用のバイトには最低賃金が適用され、Uber Eatsや出前館の業務委託には適用されません。線は働き方の中身ではなく、契約の形に引かれています。配達員に「労働者」としての保護を及ぼすべきかという議論は国内外で続いていますが、少なくともこの秋の時点で、私たちの単価を最低賃金が押し上げることはありません。
10月に最低賃金が上がる朝も、配達アプリの単価は前日と同じです。変わるのは、隣にある時給仕事の値段のほうです。
基準線チェック、最低賃金で自分の稼働を採点する
私は最低賃金を、自分の稼働に合格ラインを引くための道具として使っています。手順は3つです。
- 実効時給を測ります。直近1週間の売上から経費(ガソリン代、通信費、装備や車両の消耗分)を引き、「家を出てから帰るまでの拘束時間」で割ります。アプリに表示されるオンライン時間で割ると実態より甘く出ます。店前の待機も信号待ちも、私たちにとっては働いている時間だからです。
- 地元の最低賃金×1.25と比べます。1.25は私が使っている係数です。根拠は2つあって、雇用なら会社が持つ経費(車両・保険・通信)をこちらは自腹で払っていること、有給休暇も雇用保険もない分の上乗せが必要なことです。東京なら1,226円×1.25で約1,533円、宮崎・沖縄・高知なら1,023円×1.25で約1,279円が合格ラインになります。
- 時間帯別に割り直します。週全体では合格でも、平日の14時から17時だけを切り出すと基準線を下回っている、というのはよくある形です。下回る時間帯が特定できれば、直すのはそこだけで済みます。
手順を私の直近の数字でやってみます。7月中旬の1週間、渋谷区・目黒区・世田谷区の周辺を電動アシスト自転車で走って、売上は118,720円でした。稼働は1日8時間、7日間で計56時間。1件あたりの単価は742円で、件数にすると160件です。経費を引く前の表面時給は約2,120円になります。ここから充電代や通信費、車両の消耗分を引いても、東京の基準線1,533円までは600円近い余裕があるので、この週は文句なしの合格でした。休みなしで走った週だという注釈は付けておきます。
現役配達員のブログの相場観では、時給2,000円を超えれば十分稼げた日、1,700円前後で普通、1,500円を切ると閑散期で厳しい、というあたりに線が引かれています。私の合格ライン1,533円は、その「厳しい」のすぐ上に落ちます。偶然ではないと私は考えています。制度から引いた線も、現場の実感から引いた線も、結局は同じあたりに集まるからです。
時給1,226円のバイトは、8時間働けば9,808円です。「今日は1万円いったから満足」という日給の感覚だけで走っていると、拘束12時間で1万円、つまり実効時給833円の稼働に気づけません。基準線チェックは、その見落としを防ぐための最低限の計算です。
基準線を下回ったときの選択肢は3つあります
- 時間帯を組み替えます。基準線を下回る時間帯を捨てて、昼と夜のピークに稼働を寄せます。下回る時間に走り続けるより、休んで夜に備えるほうが週の実効時給は上がります。
- 単価の高い初期条件を拾います。今年はロケットナウが全国に広がった年です。拡大期のサービスが単価やキャンペーンで配達員を集めにくるのは、Uber Eatsも出前館も通ってきた道です。詳しくは「ロケットナウ配達員は稼げるか」にまとめています。出前館のブーストのように時間と場所で単価が変わる仕組みも、基準線を超える時間帯を作る道具になります。
- 時給の仕事を混ぜます。10月の発効前後は、求人の表示時給が新しい最低賃金に合わせて動く時期です。時給制のデリバリー(マックデリバリーのバイトなど)やスポットワークを何割か混ぜて、業務委託の配達は稼げる時間帯に絞る組み方があります。配達の仕事ごとの収入の目安は「配達員の年収はどのくらい?」に書いています。
実例も見ておきます。Uber Eatsとタイミーのデリバリーの併用を公開している配達員は、ある週のUber Eatsの売上が約20時間で27,800円、額面時給にしておよそ1,390円だったとしています。本人が見ていたタイミーのデリバリー求人は、交通費込みで時給1,100円程度が中心だったといいます。125ccのバイクはガソリン代だけで1時間あたり約50円かかるので、バイトの時給より50円以上高くなければ配達を選ぶ意味がない、というのがこの人の線の引き方でした。タイミーが1,100円なら、配達の最低ラインは額面1,150円になります。オイル交換や保険、税金、車両の消耗まで入れれば、実際の分岐点はもう少し上がります。それでもこの週の1,390円なら、配達に軍配が上がる水準です。
別の配達員は、自分の地域では平日のUber Eatsがほとんど稼げないとして、平日はタイミー、土日祝はUber Eatsという組み方を公開しています。やめるかどうかの二択ではなく、時給が落ちる曜日だけ固定時給へ逃がす形です。
この実例から、乗り換えの目安も引けます。配達の額面時給が1,200円を安定して超えているなら、経費を引いても時給1,100円前後の仕事より有利になりやすいはずです。逆に1,100円台前半まで落ちているなら、車両費のかからないスキマバイトと手取りが逆転する可能性があります。この逆転ラインは代替のバイト時給に連動するので、最低賃金の低い県ほど下がり、10月の発効でまた動きます。基準線チェックの×1.25が「雇用と同等以上か」を測る線だとすれば、こちらは「今日どちらを選ぶか」を決める線です。
もっとも、時給800円前後まで落ちても配達を続ける人はいます。シフトも人間関係もない自由に、それだけの値段を付けているということです。分岐点は金額だけでは決まりません。自由に対して時給差をいくらまで許容するか、自分の値段を先に決めておくと迷いが減ります。
配達員の間には、フル稼働こそ正義という空気が今もあります。私は逆だと考えています。基準線を下回る時間帯を捨てられる人のほうが、体力もモチベーションも長持ちします。
10月にもう一度この記事を開いてください
この先の流れは、7月27日からの会合での目安の決着、そのあと答申、8月に各都道府県の審議、10月ごろから順次発効、という段取りです。私の読みを1つ書いておくと、2026年度も答申で目安を上回る県が相次ぐはずです。地方の人手不足は続いていて、昨年39道府県が上回った構図を崩す材料が見当たりません。外れたら、外れたとこの記事に追記します。
実効時給が3か月続けて基準線を下回っているなら、その稼働パターンは変えるべきです。変える先は時給仕事への部分移行でも、稼げる時間帯への絞り込みでも構いません。自由をいくらで買うかまで含めて自分で決めれば、それは成り行きではなく選択です。最低賃金は私たちを守ってくれませんが、ものさしとしては今年も使えます。目安の数字が出たら、この記事を更新します。
出典
- 厚生労働省 中央最低賃金審議会 目安に関する小委員会(第1回・2026年6月26日): https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-tingin_127941.html
- 時事通信「最低賃金上げ、目安額の議論至らず=厚労省審議会、3回目会合」(2026年7月17日): https://www.jiji.com/jc/article?k=2026071700908&g=soc
- 時事通信「最低賃金上げ、結論持ち越し 労働側『75円』、経営側と隔たり―厚労省審議会」(2026年7月23日): https://www.jiji.com/jc/article?k=2026072300857&g=soc
- taxlabor「2026年度の最低賃金はいくら?第4回も目安決まらず月内決着へ」(2026年7月24日更新): https://taxlabor.com/minimum-wage-update/
- 厚生労働省「令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2025年8月4日答申): https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_60788.html
- 社会保険研究所「全国加重平均は1,121円―令和7年度地域別最低賃金答申額」: https://media.shaho.co.jp/n/n3816f6635503
- 東京労働局「東京都の最低賃金は令和7年10月3日から、1,226円になります」: https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/list/kiba/madoguchi_goannai_00003.html
- 実務能力開発支援協会 法改正情報「39道府県で目安超え 全国平均は時給1,121円に」(2025年9月5日): https://jitsumu-up.jp/information/2025/09/05/51768/
- 時事通信「最低賃金『全国平均1500円』、政府が目標達成先送り検討」(2026年6月26日): https://www.jiji.com/jc/article?k=2026062600513&g=soc
- 大和総研「26年度最低賃金改定のポイント①」(2026年7月9日): https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20260709_025891.html
- 厚生労働省 最低賃金制度FAQ「労働者と最低賃金制度」: https://saiteichingin.mhlw.go.jp/faq/page_faq_01.html










