先に数字の話をします。職場の熱中症で亡くなったりけがをしたりした人は、2025年の速報値で1,681人にのぼり、統計を取り始めてから最も多い年になりました(厚生労働省・令和7年12月末速報値)。配達は、この暑さと真正面から付き合う仕事です。それでも夏に走るなら、守り方を根性ではなく仕組みにしておく必要があります。この記事では、いま出前館で進んでいる冷感ウェアの実証実験を入り口に、装備・稼働設計・会社のサポートという三層で夏を走り切る方法を整理します。あえて先に言うと、最も見落とされているのは三層目です。2026年の夏は、暑さ対策を配達員の自腹だけに任せない動きが、はっきり形になり始めました。
目次
出前館で始まった「配達員100名の冷感ウェア実験」
出前館は2026年7月3日、機能性衣料などを企画開発する株式会社リベルタとの取り組みを発表しました。
出前館とリベルタ、配達員100名による共同社会実験を実施
(出典: 株式会社出前館 プレスリリース(PR TIMES)、2026年7月3日、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000534.000029254.html )
要点を自分の言葉でまとめると、こうです。2026年7月3日から7月31日まで、出前館の配達員100名がリベルタの冷感ウェア「FREEZETECH(フリーズテック) 氷撃α」を着用して通常の配達業務を行い、終了後のアンケートで着用感や課題を集める。集まった現場の声は、商品開発の改善と、屋外で働く人の熱中症予防対策や労働環境の改善に活かすとされています(出典は上記リリース)。
出前館の夏の施策は、これが最初ではありません。6月22日には、配達品質など一定の基準を満たした配達員に、サントリービバレッジソリューションの自販機アプリ「ジハンピ」で使えるドリンクチケット25,000本分を進呈すると発表しています。7月初旬から対象者へメールで順次届く流れです(出典: 株式会社出前館 プレスリリース、2026年6月22日)。飲み物を配り、次は装備そのものを現場で検証する。ひと夏に二段構えで来ています。
なぜ会社が動き始めたのか
配達員への感謝、だけではないと私は見ています。制度と数字が動いたからです。
2025年6月1日から、改正労働安全衛生規則で職場の熱中症対策が罰則付きで義務化されました。ただし、この義務がかかるのは労働者を雇う事業者で、業務委託契約で走る配達員は直接の対象ではありません。一方で、現場の数字は悪化しています。職場の熱中症による死傷者は2024年の確定値で1,257人と前年から約14%増え、2025年の速報値では冒頭の1,681人まで跳ねました。荷物を運ぶ運送業だけで201人です(いずれも厚生労働省の公表資料)。
義務の線引きでは外側、でも炎天下を実際に走っているのは配達員本人。この谷間を、プラットフォームの任意の施策が埋め始めた。これが2026年夏の新しい景色です。
振り返ると2019年にも、Uber Eatsがコカ・コーラ ボトラーズジャパンと組んで、配達パートナーへ1日1枚のドリンクチケット(アクエリアスなどと交換)を配る取り組みがありました(2019年7月1日〜8月31日。出典: コカ・コーラ ボトラーズジャパン ニュースリリース、2019年6月27日)。あの頃は夏限定の応援という色が濃かった。2026年の出前館は、その日の水分から毎日の装備へ、一歩踏み込んでいます。ドリンク配布が「今日をしのぐ支援」だとすれば、冷感ウェアの現場実験は「装備の標準を変えにいく支援」で、対策の階段が一段上がったと私は受け取っています。
夏の守りは「三層」で考える
ここからが本題です。配達員の暑さ対策は、次の三層で考えると迷いません。
- 第一層は装備です。身に着けるもの・持ち歩くもので、体温の上がり方そのものを抑えます。
- 第二層は稼働設計です。走る時間帯・休憩・補給のリズムで、消耗を管理します。
- 第三層は会社のサポートです。プラットフォームが配っているものを、漏れなく受け取ります。
グッズ紹介の記事は世の中にたくさんありますが、たいてい第一層で止まります。差がつくのは第二層と第三層です。熱中症で倒れて1日休めば、その日の売上は丸ごと消えます。冷感インナー1枚の値段と比べれば、どちらが高くつくかは計算するまでもありません。暑さ対策は出費ではなく、夏の売上を守る投資です。
第一層: 装備
装備の柱は3つです。直射日光を防ぐこと、気化熱や保冷で体を冷やすこと、そしてスマホを守ることです。
直射日光は、帽子やアームカバー、通気性のある薄手の長袖で肌の露出を抑えるところから始めます。体を冷やす側は、冷感インナー、首を冷やすネッククーラー、保冷剤の組み合わせが定番です。保冷剤は昼をまたぐと溶けるので、交換できるように複数を回す前提で持つと、午後まで効き目が続きます。
見落とされがちなのがスマホです。炎天下では本体がすぐ熱を持ち、熱暴走でアプリが落ちると注文を受けられなくなります。これは体調と同じくらい収入に直結します。直射日光が当たり続けるスマホホルダーは避け、こまめに日陰へ入れる、信号待ちの間だけでも直射から外すといった小さな対処が効きます。バッグやグッズの具体的な選び方は、[配達バッグの選び方の記事](https://www.bkb.delivery/food-delivery/2118/)にまとめています。
第二層: 稼働設計
昼のピークは注文が増える時間帯であると同時に、気温と路面からの照り返しが最もきつい時間帯でもあります。昼を走るなら休憩をどこで取るかを先に決めておくか、いっそ朝夕へ稼働を寄せるか。ここは体力と相談して設計する部分です。どこで休むかについては、[配達員の休憩場所の記事](https://www.bkb.delivery/food-delivery/2230/)で夏の休み方を別にまとめました。
一つだけ断定しておきます。「のどが渇いたら飲む」では夏の配達は持ちません。国の職場向けの予防対策でも、のどが渇く前の定期的な水分・塩分補給が基本とされています。雇われていない私たちにその指示を出してくれる人はいないので、時間で区切って機械的に補給する方式へ自分で寄せるべきです。
第三層: 会社のサポートを取り切る
2026年夏、執筆時点で一次情報から確認できている配達員向けの公式サポートを並べます。
- 出前館は、ジハンピのドリンクチケット25,000本分を、配達品質など一定の基準を満たした配達員へ7月初旬からメールで順次配布します。
- 出前館は、FREEZETECH氷撃αの共同社会実験を7月3日から31日まで配達員100名で実施しています。今回は参加者限定ですが、結果次第で装備支援が広がる可能性があり、続報を追う価値があります。
- Uber Eats・menu・ロケットナウの2026年夏の配達員向け暑さ対策は、執筆時点では公式発表を確認できていません(確認でき次第、追記します)。
ジハンピの条件で見逃せないのは「配達品質など、一定の基準」という部分です。日頃の配達評価が、夏のサポートを受け取れるかどうかに直結し始めています。評価は画面の中の数字で終わらず、こういう場面で現物になって返ってくるわけです。
そのうえで、この記事の判断軸を一つ置いておきます。夏の稼働先を選ぶときは、単価やブーストに加えて「その会社は夏に何を配っているか」を見る。配る会社は、現場が止まると事業が止まることを分かっている会社です。長く走るつもりなら、そういう会社を軸に組むほうが合理的だと私は考えます。
倒れたときの備え
業務委託の配達員でも、労災保険には特別加入という形で入れます(制度の詳細は厚生労働省の特別加入制度ページで確認できます)。熱中症も仕事が原因なら労災の対象になり得ますが、認定は個別の判断です。加入していなければそもそも申請の土俵に乗れないので、夏本番の前に自分の加入状況を見直しておくのが安全側です。事故やけがへの備えは、[事故時の対処と保険の記事](https://www.bkb.delivery/food-delivery/2030/)にもまとめています。
まとめ
1,681人という数字は、屋外で働く誰にとっても他人事ではありません。それでも夏は、需要が伸びて稼ぎやすい季節でもあります。装備で体温を抑え、時間帯と補給で消耗を管理し、会社が配っているものは取り切る。三層すべてを使って倒れずに走り切ることが、結局は最も確実な稼ぎ方です。出前館の実験は7月31日まで。結果がどう装備支援につながるか、続報が出たらこの記事に追記します。
なお、[台風や雪の日の稼働の考え方](https://www.bkb.delivery/food-delivery/999/)は別の記事にまとめています。悪天候も暑さも、体と収入を守る発想は同じです。










